目次
スタッフ/キャスト
- 監督-クリストファー・ノーラン
- 脚本-クリストファー・ノーラン
- キャスト
レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、トム・ハーディ、ディリープ・ラオ、キリアン・マーフィー、他
概要/あらすじ
一人の男が波打ち際で倒れている。その男と面会した年老いたサイトーは語りかける。男が持っていたものと同じ独楽を、遠い昔に夢で会った男が持っていたと。
若かりし頃のサイトーが波打ち際で倒れていた男にそっくりなコブと、その相棒のアーサーと会食をしていた。コブとアーサーは夢の中で潜在意識から機密を抜き取ることを生業とするスペシャリストだ。実際にはこの場所はアーサーの夢を共有した世界で、コブとアーサーとサイトーはあるアパートの一室で眠っているのだ。コブは夢の中の世界でサイトーの金庫まで潜入し、機密が入った封筒を手に入れる。しかしそこにサイトーとモルという女性が現れる。モルはサイトーに情報をリークし、さらにアーサーを人質にとりコブを脅している。コブはとっさの判断でアーサーを射殺する。死ぬことで夢から覚めるのだ。主を失ったアーサーの夢は崩壊を始める。
後日コブの実力を認めたサイトーは、コブに仕事を依頼する。サイトーの競合会社のトップは病気の老人で、もうじき息子が後を継ぐ。その息子にその会社を分割(訳ではツブしてもらいたい)するように仕向けるアイデアを”インセプション”(植え付け)てほしいというのだ。その代わりにコブが子供たちと会えるようにしてやると持ち掛ける。コブはある理由で国際指名手配となりアメリカに帰れず、子供たちに会えないのだ。はたしてコブはインセプションを成し遂げ、子供たちと再会できるのか。
どんな人におすすめなの
SF好き。スリリングな展開好き。アクション好き。
ストーリーを理解するための用語、ルール
この映画固有の設定や用語が、ストーリーを理解するためのヒントになるので以下に記載します。
※以下内容に大きくふれる部分もあるのでネタバレ注意です。
用語
夢の共有
PASIVという機械を使い複数人で夢を共有することができる。共有した夢の中であるターゲットから情報を抜き取ることを”エクストラクション”、ターゲットにアイデアを植え付けることを”インセプション”という。
夢の階層
夢の中でさらにPASIV(こちらは夢の中なので共通の意識を持つためやターゲットを引き込むためのシンボル的な役割でしょうか?)を使うことで夢の中の夢(夢の第二階層)を共有することができる。
ドリーマー
夢を共有する際の夢の主。
設計士
建造物など夢の空間をデザインする人。ターゲットが現実と思い込むような世界をデザインするほかに、トラブルが発生したときの逃げ場を作ったり、ターゲットの機密保管を誘導するための金庫を作ったりする。
偽装師
夢の中で他人になりすまし、ターゲットを誘導する役割を担う。
調合師
夢を安定させるための薬物を作る人。
投影
潜在意識が作り出す、モブや自身にゆかりのある人物。
キック
落下する感覚(feeling of falling)で三半規管を刺激し、夢から目覚めさせる行為。
トーテム
現実か夢かを判断するための各人特有の所持物。
虚無
英語ではLimboと呼ばれています。忘却。辺獄(洗礼を受けていない幼児や、キリスト以前の義人や徳の高い人物のように、永遠の地獄に落ちる罪は犯していないが原罪を抱えたままの人間が死後行きつくとされているところ)。
ルール
映画内での説明が少ないので特にキックに関していろいろな考察があるようです。ここではNETFLIXで英語字幕も確認しながら、自分なりに整理してみました。
夢の世界
夢は設計士によってデザインされる。設計士はディテールの細かさやパラドックスを使うことでターゲットが現実と思い込むような世界をデザインする。物理法則を無視することも可能だが、ターゲットに気付かれるリスクが格段に増大する。他者の潜在意識の介入を最小限にするため、詳細な部分はドリーマーと設計士だけで情報共有されることが好ましい。記憶をもとに設計することは、現実と夢とが混乱するため望ましくない。
訓練やセンス次第で思い通りの火器を出したり、他人に成りすましたり(偽装師)、無意識下ではあるが武装したモブで反撃したりできる。
夢の中の時間
夢の中では心の動きが早いので、夢の階層が深まるほど時間は長くなる。通常は現実の約5分が夢の1時間(12倍)である。
今回のインセプションのミッション(以下ロバート・フィッシャー・ミッション)では第三層まで夢を安定させるためにより強力な鎮静剤が用いられる。そのため脳の動きは各階層で20倍ずつ加速する。現実の10時間は夢の第一層では200時間(約一週間)、第二層では4000時間(約6カ月)、第三層では80000時間(約10年)となる。
夢からの覚醒
通常は 1-夢の中での死亡、2-上の階層でのキック、3-PASIVでの時間設定の3つで覚醒するが、ロバート・フィッシャー・ミッションでは強力な鎮静剤を使っているため、1の死亡ルールと2のキックルールが変則的になっている。
ロバート・フィッシャー・ミッションでの死亡ルール
通常は夢の中で死亡することで覚醒できるが、このミッションでは強力な鎮静剤のため死亡するとその人物は虚無に落ちてしまう。
ロバート・フィッシャー・ミッションでのキックルール
コブが「秘訣(THE TRICK)はすべての階層を貫通できる(PENETRATE ALL THREE LEVELS)キックの同期(TO SYNCHRONIZED A KICK)だ」と説明しているようなので、おそらく各階層同時にキック(落下)することが、ミッションの成功と安全な覚醒に必要なのだろう。ただし下層ほど時間の幅は大きくなるので完全に一致していていなくとも大丈夫。これだと途中でバンが横転しても覚醒しなかったことや、第三層でわざわざ病院の土台を爆破することや、バンが川に落ちても現実へは覚醒しないこと、音楽で緻密にタイミングを合わせていたことの整合性がある。現実への覚醒はおそらくPASIVの設定を使ったのだろう。
虚無からの覚醒
一つはコブが「ある種のキック(SOME KIND OF A KICK)をアドリブで」と言っているので、上記の同期キックで戻る方法(ただし第三層のロバートは落下ではなくAEDをキックとして使用)。あとは死亡で戻る方法だが、コブがモルや年老いたサイトーを殺すことをしていないので、自分の意志で元の世界に戻ることを決めて、自死しないといけないのだろう。
見どころ
いろいろ書いてきましたが、まずはエンターテインメントとして思いっきり楽しんでください。映像の面白さと時間を使ったスリリングな演出は、さすがクリストファー・ノーランといったところです。全体の流れの理解が難しかったり、矛盾を感じたりしたときは上記の「ストーリーを理解するための用語、ルール」を参考のひとつにしてもらえたらと思います。
その他個人的にポイントだと思ったところ
虚無でのコブの語り
終盤に虚無にてコブはモルとアリアドネのまえで、モルに行ったインセプションについて語ります。このモルはコブの潜在意識の投影なので、実際にはアリアドネを介してコブは懺悔/告解しているような形になっています。これがLimbo辺獄で行われているのが、面白いと感じた。Limboから現実世界への覚醒も合わせると、罪の許しを得て、復活したような物語の形になっているのが興味深い。ロバート・フィッシャーが自らの人生を歩み始めたり、エディット・ピアフ「水に流して」の歌詞などにも再生を感じさせます。
ラストシーンの独楽はまわり続けたのか
ラストの独楽のシーンのあいまいさに、唖然としてしまいました。
個人的には止まりそうな動きを感じたので、独楽は止まりラストは現実だと信じたい。自分は今作のようなあいまいな終わり方も好きなのですが、シンプルな物語には力があるとも思っています。なので、はっきりと止まった様子で終わってもよかったのかなとも思うのですが、コブにとっては夢か現実かは意味はなく、子供たちと抱擁を交わしている事実こそが大切だということなのでしょう。荘子の「胡蝶の夢」のような。
おまけ
独楽が止まらない派のひとで、子供たちは死んでいて、そのためにコブとモルは虚無Limboに住もうとしたのだ、従ってラストも現実で子供と抱き合えるはずない的な説明があって、Limboの辺獄という意味を考えるとなかなか面白い意見だなと思いました。